Harry Potter and the Philosopher's Stone (JP)

Subject: Japanese

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User #27

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プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私どもはどこから見てもまともな人間です」というのが自慢だった。不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。

ダーズリー氏は、穴あけドリルを製造しているグラニングズ社の社長だ。ずんぐりと肉づきがよい体型のせいで、首がほとんどない。そのかわり巨大な口髭が目立っていた。

奥さんの方はやせて、金髪で、なんと首の長さが普通の人の二倍はある。垣根越しにご近所の様子を詮索するのが趣味だったので、鶴のような首は実に便利だった。

ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。どこを探したってこんなにできのいい子はいやしない、というのが二人の親バカの意見だった。  そんな絵に描いたように満ち足りたダーズリー家にも、たった一つ秘密があった。

なにより怖いのは、誰かにその秘密を嗅ぎつけられることだった。  ――あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら一巻の終わりだ。

ポッター夫人はダーズリー夫人の実の妹だが、二人はここ数年一度も会ってはいなかった。それどころか、ダーズリー夫人は妹などいないというふりをしていた。なにしろ、妹もそのろくでなしの夫も、ダーズリー家の家風とはまるっきり正反対だったからだ。

――ポッター一家が不意にこのあたりに現れたら、ご近所の人たちがなんと言うか、考えただけでも身の毛がよだつ。  ポッター家にも小さな男の子がいることを、ダーズリー夫妻は知ってはいたが、ただの一度も会ったことがない。

――そんな子と、うちのダドリーがかかわり合いになるなんて……。  それもポッター一家を遠ざけている理由の一つだった。

さて、ある火曜日の朝のことだ。ダーズリー一家が目を覚ますと、外はどんよりとした灰色の空だった。物語はここから始まる。

まか不思議なことがまもなくイギリス中で起ころうとしているなんて、そんな気配は曇り空のどこにもなかった。

もう一度猫をよく見なおした。猫は見つめ返した。

角を曲がり、広い通りに出た時、バックミラーに映っている猫が見えた。なんと、今度は「プリベット通り」と書かれた標識を読んでいる。

――いや、「見て」いるだけだ。猫が地図やら標識やらを読めるはずがない。ダーズリー氏は体をブルッと振って気を取りなおし、猫のことを頭の中から振り払った。

街に向かって車を走らせているうちに、彼の頭は、その日に取りたいと思っている穴あけドリルの大口注文のことでいっぱいになった。

ところが、街はずれまで来た時、穴あけドリルなど頭から吹っ飛ぶようなことが起こったのだ。

いつもの朝の渋滞に巻き込まれ、車の中でじっとしていると、奇妙な服を着た人たちがうろうろしているのが、いやでも目についた。マントを着ている。

――おかしな服を着た連中には我慢がならん――近頃の若いやつらの格好ときたら! マントも最近のバカげた流行なんだろう。

ハンドルを指でイライラと叩いていると、ふと、すぐそばに立っているおかしな連中が目に止まった。何やら興奮して囁き合っている。けしからんことに、とうてい

とうてい若いとは言えないやつが数人混じっている。――あいつなんか自分より年をとっているのに、エメラルド色のマントを着ている。

どういう神経だ!  待てよ。ダーズリー氏は、はたと思いついた。  ――くだらん芝居をしているに違いない――当然、連中は寄付集めをしているんだ……そうだ、それだ!

やっと車が流れはじめた。数分後、車はグラニングズ社の駐車場に着き、ダーズリー氏の頭は穴あけドリルに戻っていた。

ダーズリー氏のオフィスは十階で、いつも窓に背を向けて座っていた。そうでなかったら、今朝は穴あけドリルに集中できなかったかもしれない。

真っ昼間からふくろうが空を飛び交うのを、ダーズリー氏は見ないですんだが、道行く多くの人はそれを目撃した。

ふくろうが次から次へと飛んでゆくのを指さしては、いったいあれは何だと口をあんぐり開けて見つめていたのだ。ふくろうなんて、たいがいの人は夜にだって見たことがない。

ダーズリー氏は昼まで、しごくまともに、ふくろうとは無縁で過ごした。

五人の社員を怒鳴りつけ、何本か重要な電話をかけ、また少しガミガミ怒鳴った。おかげでお昼までは上機嫌だった。

それから、少し手足を伸ばそうかと、道路の向かい側にあるパン屋まで歩いて買い物に行くことにした。

マントを着た連中のことはすっかり忘れていたのに、パン屋の手前でまたマント集団に出会ってしまった。そばを通り過ぎる時、ダーズリー氏は、けしからんとばかりに睨みつけた。

なぜかこの連中は、ダーズリー氏を不安な気持にさせた。このマント集団も、何やら興奮して囁き合っていた。しかも寄付集めの空缶が一つも見当たらない。

パン屋からの帰り道、大きなドーナツを入れた紙袋を握り、また連中のそばを通り過ぎようとしたその時、こんな言葉が耳に飛び込んできた。

「ポッターさんたちが、そう、わたしゃそう聞きました……」  「……そうそう、息子のハリーがね……」  ダーズリー氏はハッと立ち止まった。恐怖が湧き上がってきた。

いったんはヒソヒソ声のする方を振り返って、何か言おうかと思ったが、待てよ、と考えなおした。

ダーズリー氏は猛スピードで道を横切り、オフィスに駆け戻るやいなや、秘書に「に「誰も取り継ぐな」と命令し、ドアをピシャッと閉めて電話をひっつかみ、家の番号を回しはじめた。

しかし、ダイヤルし終わらないうちに気が変わった。受話器を置き、口髭をなでながら、ダーズリー氏は考えた。  ――まさか、自分はなんて愚かなんだ。ポッターなんて珍しい名前じゃない。

ハリーという名の男の子がいるポッター家なんて、山ほどあるに違いない。考えてみりゃ、甥の名前がハリーだったかどうかさえ確かじゃない。

一度も会ったこともないし、ハービーという名だったかもしれない。いやハロルドかも。こんなことで妻に心配をかけてもしょうがない。

妹の話がチラッとでも出ると、あれはいつも取り乱す。無理もない。もし自分の妹があんなふうだったら……それにしても、いったいあのマントを着た連中は……。

昼からは、どうも穴あけドリルに集中できなかった。五時に会社を出た時も、何かが気になり、外に出たとたん誰かと正面衝突してしまった。

「すみません」  ダーズリー氏は呻き声を出した。相手は小さな老人で、よろけて転びそうになった。

数秒後、ダーズリー氏は老人がスミレ色のマントを着ているのに気づいた。地面にバッタリはいつくばりそうになったのに、まったく気にしていない様子だ。

それどころか、顔が上下に割れるかと思ったほど大きくにっこりして、道行く人が振り返るほどのキーキー声でこう言った。

「旦那、すみませんなんてとんでもない。今日は何があったって気にしませんよ。万歳!『例のあの人』がとうとういなくなったんですよ!

あなたのようなマグルも、こんな幸せなめでたい日はお祝いすべきです」  小さな老人は、ダーズリー氏のおへそのあたりをやおらギュッと抱きしめると、立ち去っていった。

ダーズリー氏はその場に根が生えたように突っ立っていた。まったく見ず知らずの人に抱きつかれた。マグルとかなんとか呼ばれたような気もする。

クラクラしてきた。急いで車に乗り込むと、ダーズリー氏は家に向かって走り出した。

どうか自分の幻想でありますように……幻想など決して認めないダーズリー氏にしてみれば、こんな願いを持つのは生まれて初めてだった。

やっとの思いで四番地に戻ると、真っ先に目に入ったのは――ああ、なんたることことだ――今朝見かけた、あの、トラ猫だった。今度は庭の石垣の上に座り込んでいる。

間違いなくあの猫だ。目のまわりの模様がおんなじだ。  「シッシッ!」  ダーズリー氏は大声を出した。

猫は動かない。じろりとダーズリー氏を見ただけだ。まともな猫がこんな態度を取るのだろうか、と彼は首をかしげた。

それから気をシャンと取りなおし、家に入っていった。妻には何も言うまいという決心は変わっていなかった。奥さんは、すばらしくまともな一日を過ごしていた。

夕食を食べながら、隣のミセス何とかが娘のことでさんざん困っているとか、ダドリー坊やが「イヤッ!」という新しい言葉を覚えたとかを夫に話して聞かせた。

ダーズリー氏はなるべくふだんどおりに振る舞おうとした。ダドリー坊やが寝た後、居間に移ったが、ちょうどテレビの最後のニュースが始まったところだった。

「さて最後のニュースです。全国のバードウォッチャーによれば、今日はイギリス中のふくろうがおかしな行動を見せたとのことです。通常、ふくろうは夜に狩を

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